鞍馬・貴船地学ハイキング(2000.9.24)
久しぶりに鞍馬山
厳しかった残暑が一段落し,ようやくさわやかな秋が訪れました。今回は,京都の鞍馬山で地学ハイキングです。鞍馬天狗と牛若丸で有名な鞍馬ですが,地学的にも価値のある山なんだそうです。
出町柳からは叡山電車の新鋭車両きらら?に乗って鞍馬に向かいます。この車両は1998年度鉄道友の会ローレル賞を受賞しただけあって,大変きれいな車両です。片側シングルシート,その反対側はペアシートですが,それぞれが窓のほうを向いています。洛北の緑を真正面で楽しめるというわけです。しかも,ガラスが天井の一部にまで使われているので,とても明るく開放的です。でも,こんな車両を朝夕のラッシュ時に使われると,ちょっとツライ気もします。
のんびりと単線を走る電車が終点の鞍馬に到着。あたりはすっかり,山,山,山です。京都の市街地から30分ほどで,こんなに山深いところに来れるんですねぇ。
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さっそく鉱物観察
いつもの益富地学会館の旗を先頭に地学ハイキングに出発です。まずは,鞍馬寺山門の階段(@)です。この階段は,本鞍馬石でできていて,角閃石の黒い結晶が監察できます。いつもならさっそくハンマーを取り出して…というところですが,この鞍馬山一帯は鉱物はもちろん,草木も採取できません。みんなで階段の黒い石を観察していると,観光客が「何?いいものでもあるの?」「遺跡?」なんて,奇異の目で見ていきます。もちろん,そんな視線にへこたれる会員たちではありません。
石英閃緑岩
正面石段の石は,本鞍馬石ともいい,鞍馬温泉裏の中ノ谷から産出する。当山の石段に多く使われており,緻密で固いので石臼としても賞用される。
鞍馬寺の入口を過ぎると,ケーブルで登れますが,今回はそれでは意味がないので九十九折を登ります。登る途中にも所々,地質の説明を書いた表示板があります。
まずは,由岐神社。ここは,鞍馬の火祭りが行われる神社だそうです。杉の大木が何本もあり,このお寺の歴史を感じます。その由岐神社を過ぎると,輝緑凝灰岩の説明板があります。新鮮な面はつやのある緑色できれいなんだそうですが,今となっては表面に苔がつき,つやもなくなっています。
輝緑凝灰岩
九十九折参道を防災自動車道路に改修した昭和34年に,この岩を削り取って二枚の橋をかけた。当時は美しいつやのある緑色で,グリーンストンの名にふさわしかった。
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本鞍馬石と鞍馬石の石段,石垣
四脚門を過ぎると,石の階段(A)になります。ここでは,本鞍馬石と鞍馬石が使われています。それらの石が庭石などの観賞用に重宝されている現在では,なんとも贅沢な石段です。とはいっても,その当時は,鞍馬石や本鞍馬石が鞍馬で採れるポピュラーな石だったんでしょうね。
石英閃緑石
ここから本殿までの石段は,主としてこの本鞍馬石(青黒色)と鞍馬石(黄褐色)で出来ている。両方とも約7千万年前の貫入というから鞍馬では最も新しい岩石である。
本殿の手前の石垣も鞍馬石を使っているそうで,色が赤褐色に変色しています。庭石としては,このように変色した色合いが日本庭園によく調和するので,重宝されているそうです。今では,科学的に着色したものがあるほどですが,自然の色合いや風化した表面の肌ざわりはそれら人口品の及ぶべくもないとのこと。しかし,今ではその鞍馬石は産出されなくなっているようです。
本殿に上がると,展望も開けてきます。山頂付近に鉄塔のある比叡山や山頂直下の人工スキー場,目の前の竜王岳も見えます。奥の寺務所の前の小庭(B)には,石灰岩と鞍馬石が置いてあります。石灰岩は雨水にとけてでできた溝(カレン)くっきりと見え,自然のものとは思えない形をしています。
石灰岩
ここの灰色の庭石。石灰岩は炭酸カルシウムを50%以上ふくむ堆積岩で,サンゴ・石灰海綿・貝類・ウミユリ・石灰藻など海中の生物の遺体が堆積したもの。
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寺務所をさらに奥に進むと,鞍馬山霊宝殿があります。その手前には,譽謝野晶子・寛の歌碑(C)があります。しかも,この歌碑は,鞍馬石に銅板をはめ込み,その銅板に歌を書いたものです。
譽謝野晶子
何となく君にまたるるここちして いでし花野の夕月夜かな
花崗閃緑岩
この歌碑は鞍馬石で,玉葱状風化による丸い形と鉄錆の色合いが日本庭園に調和し,飛石や沓脱石・灯籠などに化工されたものが鞍馬本町の石屋さんで見られる。
輝緑凝灰岩
ここのは細かく砕かれたチャート礫をふくんでいる。チャートは深海での堆積岩だから,相当深い所の爆発で砕かれたものが,火山灰と共に堆積したのであろう。
チャート
海中に住む放散虫やコノドントの遺体などが海底に堆積して出来たもの。割ると鋭い稜や角ができるので石器時代には矢じりや石槍などに使われた。
お薦めの霊宝殿
霊宝殿には,鞍馬山付近の自然科学の資料標本が展示してあります。鞍馬山の岩石は,遠く赤道から1億数万年もの長旅をしてやってきたものだそうです。ちょっと想像を絶する感じですが,エベレスト山の山頂の岩も,昔は海底にあった岩だとか。なんとも気の長い話です。この他,霊宝殿には,弁慶や牛若丸にちなんだ展示品もあります。
霊宝殿の前の広場で昼食をしたあとは,貴船を目指します。石段の脇には,輝緑凝灰岩が見えます。しばらく登ると,露出した砂岩が階段状になっています。その階段の脇には,泥岩も見えます。
砂岩
この坂道には白い砂岩が露出しており,ここから上は2億1千万年前のもの。尾根までの道にはチャート・泥岩・黄色の鳴滝岩などが見られる。
泥岩
砂岩は水底に砂粒が堆積して出来る。粘土や泥が水底で凝集脱水して固化したのが泥岩。その剥離しやすいものが頁岩である。
急坂を登ると,有名な木の根道や義経の背比石がある尾根(D)に出ます。木の根道は,鞍馬山の案内の写真には必ず登場するほどの有名な道です。このように根が地表に出ているというのを見ると,氷ノ山のブナの木の根道を思い出します。また,このように地表に根が出るというのは,松ではよくあることですが,杉ではめずらしいとのこと。
昼なお暗い森の道
背比石は,義経が16歳の時,藤原氏を頼って奥州に下る際,鞍馬山と名残を惜しんで背比べした石だそうです。その石の高さ約1.2m。昔とはいえ,チョット低すぎるのではないでしょうか。
木の根道
このあたりの地質は,主に砂岩であるが,岩脈が貫入し,その熱によって砂岩が硬化し風化しにくくなっている。
そのため,此所に芽生えた杉の根が地下へのびることができず,地表に近いところに根を張ってこのめずらしい景観を作っている。「木の根道」といわれて,くらま山の名所の一つになっている。背比石
柵の中にある約1.2mの石。中生代末(約7000万年前)に噴出した石英閃緑岩で,坂に見える「天狗の卵」はこれが玉ねぎ状に風化したものである。
背比石から少し下ったところに,「天狗の卵」があります。鞍馬らしい命名です。前述の鞍馬温泉裏手の中ノ谷で産出する大岩塊の小石バージョンといったところです。このあたりから道は,貴船へ下り一方になります。
しばらくすると,奥の院不動堂に出ます。この一帯は,僧正が谷と呼ばれています。周りは杉の大木に囲まれ,神秘的です。ここは,鞍馬天狗と牛若丸が出会ったとされる所だそうです。
極相林
裸地や,山火事・伐採で樹木を失った土地には,はじめに光を好む草が生え,ついでマツやナラのような陽樹が入りこむ。その日かげにシイやカシのような陰樹が生え,陰樹が成長して陽樹を追いやる。すると最後に陰樹だけの林となって永く安定する。これを極相林という。
鞍馬山では,このあたり一帯が極相に達した森である。ウラジロガシ,ツクバネガシ,カゴノキ,サカキ,ツバキなどの暖地性の照葉樹林や,ツガ,モミなどの針葉樹林が中心となり林内ににそれらの若木が育っている。
このような森林ができるまでには,少なくとも200〜300年の歳月が必要だと考えられています。石英閃緑岩
背比べ石から不動堂までの坂道一帯の地下には,本鞍馬石の玉葱状風化した鶏卵大から拳大ぐらいまでのものが埋まっており,俗に「天狗の卵」と呼ばれる。
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ここから左に進み,魔王殿(E)に出ます。魔王殿は石灰岩の溶蝕面状に建てられています。石段も石垣も,石灰岩です。水をかけてよく見ると,ウミユリの化石が肉眼でもはっきりと確認できます。左手奥の玉垣の奥には,大きな石灰岩塊がいくつもあります。雨水によって溶蝕をうけているので,カレンがいくつもできています。
石灰石
ウミユリや紡錘虫の化石を含み,古生代ペルム紀中期には赤道付近の珊瑚礁であった。それが年間約3〜4cmの速度で1億数千万年をかけてここまで辿りついたという。
石灰岩
中には,刀で切りつけたような傷痕をもつ石がある。牛若丸の剣道修業の跡で兵法石と伝えられるが,実は雨水に溶食されてできた溝で,カレンという。
天狗岩(F)は, 大きなカレン(雨水にとけた溝)によって,天狗の横顔のように見える石灰岩塊です。これまた,鞍馬らしい命名です。
石灰岩
この岩塊にも溶食された溝や穴があり,その大規模なものが鍾乳洞。地下資源のとぼしい日本でも石灰岩だけは豊富で,セメントやかーバイトなどに使われている。
輝緑凝灰岩
この付近にも輝緑凝灰岩が多く,ボロボロに風化した角礫が道傍に出ている。礫の中には破砕された小粒のチャートを含み,霊宝殿付近のと同じものである。
魔王殿からは,急坂を下ります。鞍馬山を越えるこのルートは,ほとんどが木立の中のルートで,昼間でも薄暗く,鞍馬という名にふさわしい雰囲気です。これだと直射日光の厳しい真夏でも,涼しい山歩きが楽しめそうです。
貴船
下り切ると,鞍馬寺西門です。貴船川を渡ると貴船です。川床料理が有名で,夏でも涼しくお食事が楽しめます。でも,このあたりもあまり日が当たらないので,夏はいいでしょうが,冬は寒いでしょうねぇ。
貴船川沿いに,叡山電車貴船口駅に向かって歩きます。道の両側には,大阪営林局・京都営林署の看板が立っています。また,谷は急なので,水の流れは滝そのものです。「○○の滝」なんて名前がついてもおかしくないほどです。上を見ると,もみじの緑が頭上をおおっています。紅葉の時期には,きっときれいでしょう。
貴船の集落を抜けると,「蛍岩」があります。岩が蛍のように光るのかなぁと思っていたのですが,さにあらず。このあたり一帯で蛍の乱舞が見られるから,その名が付いたようです。
蛍岩(蛍の名所)
ものおもえば 沢の蛍も わが身より あくがれ出づる 魂かとぞ 見る
木船川 山もと影の 夕ぐれに 玉ちる波は 蛍なりけり
平安時代の女流歌人・和泉式部が貴船神社に参詣し,蛍の歌を詠みました。それから千年後の現在も,六月中ごろからこの付近一帯で,蛍の乱舞が見られます。
20分ほど歩くと,貴船口駅に着きます。このあたりは,火打石の名産地だったそうで,鞍馬山への信仰もあって,ここの火打石が神聖なものとして特に重宝されたようです。
鞍馬山の火打石
山の上からふごと呼ばれるかごにのせられて下りてくる火打石を神聖なものとして,鞍馬寺へ詣でる人たちが争って買い求め,大切に持ち帰ったそうです。
チャート
叡山電車の鞍馬・貴船口間のトンネルは,チャートの岩山にある。昔は,あの山の上から紐をつけたふごを下ろして鞍馬詣での土産に火打石(チャート)を売っていた。
今回は,鉱物採集はできませんでしたが,地学ハイキングということで,地学についての知識を得ながら山歩きを楽しんできました。やっぱり,実際に山に行って説明してもらうと,よくわかります。地学は,実際にその現場に行かなきゃいけません。楽しい秋の一日でした。益富地学会館のスタッフのみなさんには感謝,感謝です。